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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(あ)2109号 判決 1966年3月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人諌山博の上告趣意第一点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第二点は、単なる法令違反の主張であり(原判決が所論の点に関し、本件執行行為をなすについて執行吏が補助者として債権者である杵島炭鉱株式会社の職員を使用しているけれども、もともと執行吏の補助者は当該執行吏のいわば手足に相当する機関として執行行為に関与するものであって、執行吏執行等手続規則一五条の立会証人の如き任務を有するものではないから、事件の適正処理の建前からすれば、なるべく事件に関係のない者であることが望ましいとはいえ、同規則一四条の法意からすれば執行吏が債権者たる右会社の職員を同条の補助者として使用したことを以って、違法ということはできないとした判断は、正当である)、同第三点及び第四点は、単なる法令違反の主張であり(刑法九五条一項に規定する公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当り、その職務の執行を妨害するに足りる暴行脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に当該公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、当該公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当すると解するを相当とする。本件において、被告人は下平執行吏がその職務の執行をなすに当り、公務員ではないがその補助者として同執行吏の命令によりその指示に従って被告人方の家財道具を屋外に搬出中の江頭孝幸に対し第一審判示の暴行脅迫を加えたもので、その際被告人方の出入口又は戸外において執行を指揮していた右執行吏をして、右暴行脅迫により一時執行を中止するの止むなきに至らしめたものであるから、本件被告人の所為は、直接公務員である同執行吏に対してなされたものでないとしても、同執行吏の職務の執行を妨害する暴行脅迫に該当するとした原審の判断は、右説示に照らして正当である。)、いずれも、上告適法の理由に当らない。

弁護人角銅立身の上告趣意中判例違反をいう点は、原判決の認定しない事実を前提とする主張であるのみならず、原判決は所論引用の判例と何ら異なる判断を示していないことが明らかであるから、論旨は理由なく、その余は単なる法令違反の主張を出ないから刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

よって、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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